経済的苦境にある会社の事業を事業譲渡により再生させた事案

1 相談の概要

相談者は、川崎市に本店所在地を構え、約40名の従業員を抱える、30年以上続く建築会社であり、近年はソーラーパネル設置工事において国内有数の技術力を持つA社でした。

この会社は、戸建住宅のソーラーパネル設置のほか、大規模太陽光発電所(いわゆるメガソーラー)の建設も多く手掛けており、その需要の増加とともに事業規模を拡大してきましたが、売電価格の低下による工事件数自体の減少に加え、メガソーラーにおける売電権の販売(いわゆるID取引)にあたり、二重売買の被害に遭うなどして多額の資金流出が続いた結果、急速に資金繰りが悪化することとなりました。

当初、取引先B社を支援先(スポンサー)候補とする民事再生を検討していたA社でしたが、材料仕入れ業者への支払いも滞っていたことで業界内での風評を含め事業劣化が進んでいることを理由にB社が支援表明を撤回するに至り、新たなスポンサー候補者を探すところから始めることとなりました。

 

2 事業再生の手法

2-1 スポンサー選定

 B社がスポンサー候補から外れたことを受け、新たなスポンサー候補者の選定が急務となりました。

A社の代表者に別の取引先などにあたってもらうとともに、当事務所でも、過去に同業種の事業再生で関わったことのある複数の企業に対して社名を伏したオファーレターを送付して、スポンサー候補者を募りました。

オファーレターに対しては数社から反応があり、NDA(秘密保持契約書)を締結したうえで会社の財務情報等を開示し、支援の検討を依頼しました。しかし、採取的に支援表明には至りませんでした。

間もなく資金ショートという状況の中、顧問税理士を通じて紹介を受けたC社から、漸く支援の表明を受け、具体的な事業承継スキームの協議を開始しました。

 

2-2 スキームの検討及び実施経過

 A社の強みは、業界有数といわれるパネル設置技術にありましたが、これは個々の職人のレベルによって維持されるものです。既に給料支払いの遅滞も発生しており、これ以上の地帯が続く場合には職人が他社へ離れてしまい、事業価値のコアが失われてしまう可能性があったことから、まずは事業再建の迅速さが要求される状況でした。

また、A社には多額の税金や社会保険料の滞納もあったことから、A社の法人格を維持しする方法での民事再生手続によることは困難な状況でした。

そこで、公認会計士による事業価値算定を実施して大まかな対価を決定したうえで、事業譲渡によりソーラーパネル事業をそのままC社へ承継してもらうことで事業価値の棄損を防止するとともに、その後に法人としてのA社は破産申立てを行うこととしました。

また、事業譲渡の対象資産その他の承継資産の検討を行っている最中に資金ショートしかねない状況であったことから、目前の支払いを行うための資金が必要でした。そこで、A社の売掛金に債権譲渡担保を設定して、その金額の範囲内で、A社従業員の給料などをC社から立て替えて支払ってもらい、何とか資金を繋ぎました。

こうして資金を繋ぎながら、事業譲渡の詳細についてC社と交渉を行い、交渉開始から約1か月半で最終的な事業譲渡を完了しました。これにより、従業員の大半の雇用を維持しつつ、事業価値の棄損を最小限にとどめながら、ソーラーパネル事業の承継を行うことができました。

 

3 まとめ

本事案では、A社の社長と我々弁護士が一丸となり、資金ショートぎりぎりの状況でも諦めることなく模索した結果、雇用を維持しつつ、取引先への影響も最小限にとどめる形での事業承継が実現できました。

守るべき価値がある限り粘り強く道を探すことが、大きな結果に繋がるのだと思います。