資金不足が著しい企業が民事再生を申立て、再建を果たした事例

1 相談の概要

相談者は、某有名観光地に所在する、ホテル・旅館等に設置するリネン類(タオル・シーツ・浴衣等)の供給とクリーニングを業とするA社でした。

A社は、地域内に競合する同業者が少なかったこともあって、比較的安定した経営を行ってきましたが、設備投資のための借入金の返済や過大な経費負担などが徐々に経営を圧迫し、税金も滞納するようになりました。さらに、東日本大震災時の原発事故による風評被害の影響で、売上が大幅に減少し、資金繰りが急速にひっ迫するに至りました。

そしてついに、月末に予定されている金融機関への弁済や買掛先への支払いが見込めない事態になり、急遽、A社の役員が相談に来られました。

2 事業再生の手法

2-1 私的整理

相談を受けた段階では、支払時期が切迫しているうえ、手持ち資金もごくわずかという状況であったため、「私的整理」、すなわち事業を継続しつつ金融機関らと弁済条件等について協議し合意を得て再建を果たすとの方法は困難であり、事実上、法的手続しか選択肢は残されていませんでした。

2-2 民事再生

このような場合の法的手続としては、「破産」と「民事再生」があります。

破産は、事業は停止して破産管財人の手によって全ての資産を処分して債権者に配当し、会社は清算する手続です。

民事再生は、事業を継続しつつ、申立前に発生している債務について一旦棚上げを受けて、その後、これを一定の条件で弁済する等の再生計画を策定し、同計画に沿って企業の再建を図る手続です。

相談を受けた時点でのA社の状況は、破産が相当と考えられるところまでひっ迫していました。

しかしながら、A社の事業は、地域の中で必要不可欠なものであり、仮に同社が破産して事業を停止した場合、周辺の宿泊施設等に与える影響は甚大であり、全国有数の観光地である同地域全体の地盤沈下にもつながりかねないものでした。

そこで、事業を継続し、従業員の雇用も守ることを第一に考え、A社と協議検討を重ね、その結果、「民事再生」を選択することとしました。

民事再生については、こちらに詳しく書いていますので、参考にしてください。

中小企業経営者が知っておきたい民事再生法による事業再生

 

2-3 民事再生手続における問題点とその解決

ただ、この民事再生手続を進めるうえではいくつかハードルがありました。

ひとつは、資金面です。民事再生手続を取る場合、事業継続のための一定程度の運転資金や、申立ての際に裁判所に納める予納金(数百万円程度・・・債務総額により異なる)等が必要となります。この時点でのA社の資金は極めて乏しく、予納金すら賄えない状況でした。

ふたつ目のハードルは、取引先等の理解・協力です。これが得られないと、事業を継続したとしても早晩行き詰まり、再建など到底覚束ないことになります。この点はA社の役員も強く懸念されていました。すなわち、民事再生を申立てると法的手続を取ったことが公になり『倒産企業』というレッテルが貼られて信用が地に落ち、ただでさえ多額の焦げ付きが生じている取引先は、二度と取引をしてくれなくなるのでは、というものです。

3つ目の問題は、多額の税金の滞納があったことです。民事再生手続においては、租税債権は「棚上げ」の対象にならず、随時弁済が求められ、場合によっては滞納処分(差押え)を受けることもありうるからです。

上記問題のうち1点目の資金関係については、裁判所と相談して、予納金を民事再生の申立時に一括納付するのではなく、分割して納めること、及び、申立て前後における資金の使途を改めて練り直すこと等により解決しました。

また、2点目の問題である取引先の関係については、民事再生申立て直後に、取引業者ら債権者を対象とした説明会を開催し、申立ての経緯や民事再生手続の概要を説明するとともに、従前と同一の条件での取引継続を依頼しました。とくに重要な取引先については、直接お詫びとお願いに上がるなど、真摯な対応に努めました。その結果、ほとんどの取引先より理解をいただき、従前通りまたはそれに近い条件での取引継続の協力を得ることとなりました。

3点めの税金の問題は、租税庁と交渉し、滞納分について長期分割で納付する旨の了承を得ることで解決しました。

以上により、事業は滞りなく継続することができ、再生手続申立てによる売上の減少等は見られませんでした。また、従業員全員の雇用も守られました。

2-4 再建を万全にするための方途

民事再生手続を申立て、再建への道を踏み出したといっても、同手続は申立て前の債務を棚上げするに過ぎないものであり、真の再建を果たすためには、会社が苦境に陥った原因をあぶりだし、これを除去することが必要不可欠となります。

このため本件では、再生手続申立後、A社の事業状況を各部門において詳細に検討し、在庫・生産管理の不備や、配送ルートの非効率性等の、それぞれの課題を確認し、これを改善するため、役員・管理職らで構成される業務改善会議を開催し、これに代理人弁護士や公認会計士も参加して、問題の分析・解決に努めました。

さらに、再建を万全にすべく、スポンサーより支援を受けることとし、複数候補のうち、支援内容等において最善の提案を行った、全国屈指の規模を有する同業の企業をスポンサーに選定しました。これにより、信用の補完が図られ、再建はより円滑に進むこととなりました。

2-5 再生計画案提出から現在に至る状況

その後、棚上げされた債務の弁済条件等を定めた再生計画案を提出しました。債権者からは、計画案の内容や、A社経営陣の再建に向けた姿勢等について理解及び評価をいただき、同計画案は、再生債権者全員(100%)の同意を得て、裁判所の認可を受けました。

再生計画に沿った弁済を実行し、再生手続の終結決定を得た後、A社は、順調に再建を進め、工場棟を新設するなど設備の拡充を行うまでになりました。民事再生申立てから数年を経た現在、地域の優良企業として確固たる地位を築いています。

2-6 まとめ

A社は資金的にも相当切迫した状態で相談に来られましたが、無事、事業を継続し、従業員の雇用も守って、見事に再建を果たすことができました。

この件では、民事再生手続を取りましたが、「倒産企業」といった風評の影響などはほとんどありませんでした。

事業者が経済的な苦境に追い込まれた際の解決法を選択するにあたり、各手続のメリット・デメリットを検討することはもちろん重要ですが、「法的手続だとこうなる」などの先入観に囚われ過ぎると、真に求められる、必要な解決を果たせないことがあります。それぞれの状況とニーズに応じた最善の手続きを、ノウハウを有する専門家とともに慎重に検討し決定していくことが肝要です。

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